大学卒業後、企業に就職して3年目のとき、私の部署にM子が異動してきた。
M子は同い年で同期。同期での飲み会でちょっと話をしたことはあったけど、女子会をするほどでもない仲だった。
私の職場では大体3~4年で異動があって、M子は偶然この年度に異動になった。
M子にはT先輩が教育係として付き、一か月ほど研修のようにして一緒に働くことになった。
M子が異動してからは、私とM子と、同期の女子のK子と昼ごはんを食べるようになった。
私とK子は仲良くしていた。就職してから同じ部署だったし、同い年の同性だったから打ち解けやすかった。仕事帰りにごはんに行ったり連絡を取り合ったりと、プライベートでも付き合いがあった。
それでも昼休憩はM子が会話に入りにくいような雰囲気ではなかったと思うし、昼休憩のときは3人で話せていたと思う。
M子が入ってきてから二週間くらいが過ぎたある日のこと。
私とK子は偶然同じ時間に仕事が終わったので、久しぶりに一緒にごはんに行くことになった。
ファミレスでだべりながら食事をしていると、K子がニヤニヤしながら話した。
「M子ってさ、T先輩のこと好きだよね?」
私もそう思っていたところで、うんうんと相槌を打った。
M子がT先輩を好きなのは、きっと誰が見ても分かるくらいバレバレだった。私はだいぶ鈍い方なんだけど、M子もT先輩に対する好き好きオーラはよくわかった。
とはいえ、T先輩には大学生の頃から付き合っている彼女がいる。T先輩はそれを隠さないから、もうM子も知ってるのではと思う。
どうなるんだろうね、なんて話しながら、その日のごはんは終わった。
M子に違和感を覚えるようになった
その後も仕事は普通にやって、時々仕事帰りに同僚とごはんしたりして、いつも通りに過ぎて行った。
そんな中、M子に違和感を覚えるようになった。
なんか、私に対して当たりが強くなってきたような気がするのだ。
大したことのない雑談に対していちいち否定してくる。例えば
「昨日のあの番組、面白かったよね」と言うと
「それつまんないから見てない」といった感じ。一つ一つは本当に小さいことなんだけど、毎回これなので気が滅入ってきた。
恐らく私のことが、何かしら気に入らないのだと思った。
もし思い当たることがあれば変えようと思うけど、本当に何も思い当たらなかったのだ。
それにM子は、昼休憩中にいつも
「仕事しんどい」
「はー今日もだるい」と、ネガティブなことを言ったり、ため息をついたりしていた。
実は私は、今の仕事が好きだったのでM子の言葉が地味にしんどかった。
「まぁ仕事はしんどいよね」
「今の仕事が苦手だったら、また異動できるといいよね」と適当に合わせてたけど、本当は嫌な気持ちになっていた。
それがお昼休みにいつもあるので、ちょっとずつ気が重くなってきた。
M子が異動してきて3か月くらい経ったある日、T先輩に仕事帰りにごはんに誘われた。
そこで
「私子ってM子とあんまり仲良くないの?」と聞かれてビックリしてしまった。
確かに仲は良くないんだろうけど、T先輩はどうしてこんなことを言ったのだろう?
混乱していると、T先輩は
「M子は良い子だから仲良くしてあげて」と言ったのだった。
どういうことか訊くと、T先輩はM子とたまにごはんに行っているそうで、そこでM子が
「同僚に馴染めない」とこぼしていたそうなのだ。
そこでT先輩は、同期で同性の私とK子とならすぐ馴染めると思ったらしく、まず私に声をかけたらしい。
確かにこの部署はそこそこ仲がいいから、いきなり飛び込んだら疎外感を感じるのかもしれない。
でも、昼休憩の時でも馴染めないと思ったのだろうか?K子とは内輪話はしてないし、3人で会話できてたと思うんだけど…。
私が知らないうちに、K子と仲良くしすぎてしまったのかもしれない。
私は
「気をつけてみます」と返した。その後は普通に話して解散した。
M子のことを気にかけるようにしていた
それからは、M子が疎外感を感じてないか、より気にするようになった。もしかすると、M子が私に対して当たりが強いのはそれが理由かもしれないとも思った。
しかしM子の態度は変わらなかった。やはり私の言う事に対していちいち否定してくる。
時々T先輩にも
「M子とは上手くやってる?」と聞かれるのも辛くなってきた。
K子に相談するのも悩んだけど、ついに言ってしまった。
K子は私を心配してくれて、
「3人一緒に昼休憩するのやめようか。私から言っておくよ」と言ってくれて、かなり救われた。
ついでにK子に相談してみたけど、M子の態度の原因はやっぱり分からないと言った。
とりあえず、昼休憩にM子と過ごさなくなって、だいぶ気が楽になった。
できるだけM子には関わらないようにしていて、時々話す感じにはなった。相変わらず私に対して当たりは強かった。
それでも他の同僚とはいい雰囲気で仕事ができてたので、仕事に行くのが憂鬱にならなくなった。
T先輩とM子と雑談をしたことでわかったことが
少し気持ちが安定してきた頃だった。仕事中にちょっと休憩しようと思い、コーヒーを飲みに休憩所へ行った。
そこにはT先輩がいたので、ちょっと雑談しながらコーヒーを飲んでいた。
するとM子がやってきたので、3人で話す感じになった。T先輩と話すM子はすっごくニコニコしていて、まだT先輩のことが好きなのかな?なんて思って観ていた。
ふいにT先輩が私に話を振ってきて、私が訊かれたことに答えていると、なんか空気が変わったように思えた。
ちらっとM子を見て驚いた。
さっきまで満面の笑みだったM子の表情が無になっていて、目が私のことをにらみつけていたのだ。
そして頭の中でつながった。M子は私を恋敵のように見ているんだ、と。
今までそんな発想なんてなかった。M子がT先輩のことを好きなのは分かっていたけど、自分が恋敵にされてるなんて思ってもみなかった。
だって私はT先輩とは特別仲良くしてなかったし、そもそも私がT先輩とどうこうなる以前に、T先輩には彼女がいる。
信じがたいけど、M子の表情を見るとそういうことらしかった。
それからはM子とT先輩と距離を置くようになった。
気のせいかどうか分からないけど、M子との関係も落ち着いたように思えた。
T先輩からの相談ですべてがつながる
それから3か月くらい経ったある日のこと。
この日はM子が有休でいない日だった。私が仕事を終えて帰ろうとすると、T先輩に呼び止められた。
「今日、ちょっとみんなで飲まないか」とのことだった。
T先輩は他にもK子やら数人にも声をかけ、5人くらいで飲むことになった。
飲み会の中で、T先輩がため息をついて愚痴りだした。
「M子がうざくなってきた」と言うのだ。
私はあれからT先輩ともM子とも距離を置いていたので知らなかったが、T先輩はストレスを溜めていたようなのだ。
T先輩、最初はM子の印象は良かったそうだ。研修中もニコニコしていて態度が良かったそう。
研修後も時々、仕事帰りにごはんして仕事や職場の様子を聞いていたそうだ。そうしていたのは、M子の教育係になった責任もあった。そこでM子
「同僚に馴染めない」と言っていて心配もしたそうだ。
そこで、同僚との飲み会も時々開催してみたが、肝心のM子がT先輩以外と話そうとしない。
T先輩としては、他の同僚との親睦のために飲み会をしているのだから、他の人と話さないと意味がない。
後でそれについて訊くと
「T先輩と話すのが安心するから」と答えられる。
職場でも、M子は他の同僚とコミュニケーションを取ろうとしない。
M子はもう半年も経っているのに
「馴染めない」と言っている。
そして最近は、休日も会いたいと言われたり、仕事帰りに待ち伏せされてごはんに行くことになったり、業務中に仕事と関係ないメールを送ってきて困っているそうだ。
とりあえずK子が
「M子はT先輩に好意がありますよ」と言うと、T先輩は面食らっていた。
「なんで?俺彼女いるし、彼女の話もM子にしてたよ?」
「本当にそうなの?」と戸惑いだした。
私も同席してた同僚もK子の発言に頷いていると、T先輩は困った顔をした。
そしてK子が
「もしかして、M子が『職場に馴染めない』ってのも嘘だったんじゃないですか?T先輩に相談に乗ってもらうってことで、ごはんする口実にしてたんじゃ…」というと、T先輩はハッとした顔をした。
私も他の同僚も目からウロコだった。
確かにM子は、そもそもT先輩以外と仲良くする気がないように思えた。
なんだそういうことか…となったところで、K子がイライラした様子でさらに言った。
「なんかM子、最近私がT先輩と話してると睨んでくるんですよね。ほんとうざい。」
T先輩が
「それ本当?」と返すと、K子は頷いて
「ちょっと前は私子もそんな感じだったみたいですよ」とサラリと言った。
T先輩はビックリして私を見て
「…本当?」と言った。
私は
「本当です」と返した。
私も私で、次はK子が私と同じ目に合っているのに驚いていた。
K子に大丈夫だった?と訊くと
「まぁ大丈夫というか、私子から話を聞いてたからすぐわかった。私子の方が大変だったでしょ。気づくまでM子の関係で悩んでたじゃん」と返された。
こんな言い方もなんだけど、私の勘違いじゃないことが証明されたようで、ちょっとほっとした。
なんかスッキリしたところで、T先輩から報告。
「俺、彼女と結婚することになってさ。」だそう。その後は、一気にお祝いムードに変わった。
その後の職場では…
それからT先輩は、程なくして部署のみんなに
「結婚します」と宣言した。同僚みんなが祝福している中M子は無表情だったけど、どんな心境かは分からない。
私やK子の、T先輩と数年一緒に働いた同僚は、T先輩の披露宴にも出席した。
T先輩が幸せになって嬉しい反面、M子ざまぁって気持ちになったのはここだけの話。
さらに半年後、T先輩はもう異動する時期だったので他部署へ配属になった。
これで解決…ってなったかと言うと、ちょっと後日談もある。
T先輩が抜けたあと、M子は本当に誰とも話せなくなってしまったのだ。
M子が元々受け身で、自分から話しかけられない性格なのもあるけど…女性社員をことごとく恋敵扱いしてしたのも災いした。
M子はどうやら、私とK子以外の女性社員にも、あんな態度を取っていたらしいのだ。
そこで同期の私とK子にすり寄りだしたけど、私は睨まれた時の顔が過ってM子を受けつられなくなった。
K子も
「なにあの子?」と怒っている。
M子は男性社員にもすり寄りだしたんだけど、
「いきなり態度が変わったもんだから怖い」と言っていた。
結局、私もK子もその後異動になった。
当時の同僚とは今でも交流があるけど、M子のことはもう分からない。
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