花屋での修行中、お客様のひと言に報われた日

スカッと

わたしがお花屋さんで働いていた時の話です。

そのお店は駅前通にある大型生花店で、お花の先生も通う老舗でした。

先輩達もベテランばかりで
「見て覚える」スタイルでとても厳しくすぐ辞める新人も多かったです。

朝早くから夜遅くまで、仕事量も多くハードでしたが真面目でストイックなタイプの私は懸命に食らいついて働いていました。

だからか、10人ほどの同期の中でいち早く店頭に立つ事が許され、評価して頂いていた様に思います。

ただ、今なら期待の裏返しと分かりますが私だけに理不尽に厳しいと思う事もありました。

先輩方は店奥の作業場で冠婚葬祭の花篭や配達用のアレンジの作成に忙しく、店頭の小売の細かいことは私に押しつける感じがありました。

必ず誰か先輩はいましたが助けてくれる感じはなく、懸命に接客をこなすうちに1000円程度のアレンジが作れる様になったり、自分でも成長とやりがいを感じ始めました。

でもそれを暖かく見守ってもらえるだけじゃないと知りました。嫉妬です。

ある時
「社長室に飾る見映えのする花を選んでください」と秘書風の女性がお見えになりました。

すぐに先輩に相談しましたが無視するんです。

仕方なく持っている知識と想像力をフル稼働し一生懸命お選びしました。

後日
「本当に素敵だったわ。あなたセンスがあるわね。また選んでくださる?」と再び来店し、ご指名までして下さったのです。

飛び上がる程嬉しかったにもかかわらず、私は嫉妬でみるみる表情が歪んでいく先輩の顔を見てしまったのです。

恐怖と動揺で、一度目よりもぞんざいに、早々に接客を終えてしまいました。

その後再び来店される事はなく、苦い思い出になってしまいました。

その他にも、分からないでマゴついていてもスルーされる事が多く、よく店裏で泣いていました。

そんなある日若い男性が
「彼女に50本のバラの花束を」とお見えになりました。

かなりの大きさになりますし、花束はアレンジよりもバランスを取るのが難しく私には無理です。

すぐ先輩に伝えましたがまさかの無視です。

困っていると直後に40〜50代の素敵なマダムがご来店し
「なんでもいいから大きな花束を。これから歩いて届けるので持ち歩いてオシャレな感じに」とオーダー。

先輩はそちらを作り始める様子で、作業場にも助けを求めましたが皆忙しく誰も構ってくれません。

覚悟を決めました。
「50本はかなり重いです。30本でも充分ボリューム出ますよ」などと言って減らして頂き(汗)作り始めました。

くしくも先輩と新米が並んで大物を競作する様な形で作業が始まりました。

するとマダムの方がイライラし始めました。
「ねえ、隣の彼女みたいに作ってよ」と先輩にクレームをつけ始めました。

「え…」先輩は戸惑って隣の私を見て来ます。

私はラウンド方式でボリュームが出る様に丸い花束を作っていました。

それしか作り方を知らなかったし、50本を30本に値切った(笑)後ろめたさもあり、大きく見える様に、大きく見える様の一心で。

一方先輩は大小色とりどりの花を平面的に束ねていました。

例えは良くないかもしれませんが、仏花に近いスタイルでした。

技術が詰まってゴージャスでしたが
「オシャレ」ではなかったのでしょう。

マダムは何度も
「ねえ、ボリュームもっと出して。だから隣の彼女みたいに」と執拗に言い続け、いつの間にか店内の他のお客様もバトルを興味津々に食い入る様に見つめておりバラと格闘中の私は汗ビッショリです。

花束は一度作り始めたら作り直すには1から始めなくては修正は難しいですし、先輩も
「いったい何がダメなんですか」と言わんばかりの態度で、結局平面的な作品となりマダムは残念そうでした。

一方私はヘタクソですが
「バラの」
「大きな花束を」
「バサッと渡したい」と言うオーダーには叶ったらしく満足して頂いた様でした。

会計後マダムが私に
「あなたはセンスがいいわ。今度はあなたに作って貰うわね」と言い残されていきました。

褒められた事でまたも私は感激しました。大物をひとりで作れた満足感もあり、日々の努力が報われた思いでした。

ただ公衆の面前で勝手に優劣をつけられた先輩はしばらく口をきいてくれず、スカッとしたのと同時に苦い思い出でもあります。

その後もお客様に褒めらては嫉妬されいたたまれず、と言う環境に疲れて退職する事に。

でも厳しかった先輩達がこぞって引き留めて下さり、
「アンタには期待していたのに」と口々に褒めて下さり、感謝しかありません。

今思うのは、そもそもアレンジ作りも花束も必ず教えてくれた先輩がいたはずで、自分ひとりで成長したわけではなかった事を、当時はわかっていなかったと言う反省と、それでも成長する後輩がいるならば素直に褒めて伸ばしてあげようと言う教訓です。

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