恥ずかしながら高卒で派遣社員としてある企業で働いてた。
同じ派遣仲間は二十代後半の先輩と二十代半ばの先輩、俺と仲間たち三人が二十歳。
その年長の先輩を仮にジュンイチと呼んでおく。
ジュンイチはやはり高卒で派遣を渡り歩きながら十年ほど働き、ここの会社も前に勤めたことがある上に似たような業種を経験していたので、確かに仕事はよくできる人だった。まじめに働いていたし。
ここに二十代後半の女性が派遣としてやってくる。仮にアケミとしておく。
ジュンイチはアケミの指導役を会社から言われて丁寧に教えていて、ほぼ毎日つきっきりだったので会社や出入りの企業から夫婦と呼ばれ、ジュンイチも堂々と恋人宣言してたしアケミも笑いながら否定せず。
年齢的にもありなんだろうな~としか俺らは思ってない。
そもそも七つほども年上となると俺らの関心の外だし、俺ら三人はそれなりに付き合ってる女もいたのでアケミのことを狙う気もさらさらなかった。
二十代半ばの先輩だけはちょっとアケミに気があるような感じはしたけどね。
ジュンイチの提案で派遣六人の飲み会が月一で週末の土曜日に行われることになったが、アケミは最初の三ヶ月は顔を出そうともせず。
俺ら三人は仲がいい仲間内だからそれなりに楽しかったけど、ジュンイチは企画しながらアケミ不在のせいでちょっと機嫌悪そうだったね。
アケミが初めて参加したのは四ヶ月目。
六人用の席でジュンイチは真ん中に陣取り左側にアケミがいる。アケミの向かい側にはもう一人の先輩。
俺はジュンイチの向かい側で他二人の仲間は俺の左隣とその向かい側。
俺ら三人はワイワイやってるんだが、この時ばかりはテンション上がったジュンイチ、仕事の話で熱く語るわ語るわ、うざいったらありゃしない。
いかに自分が有能かを誇示し俺らに説教、アケミに指導。もう酒も飯もうまくない。
お開きの時にジュンイチ
「アケミだけ千円であとは俺らワリカンでいいよな?」
まるで自分がアケミにご馳走したかのような威張り方だけど、ようは俺らからも金を巻き上げてるだけなんだよね。
後日アケミとたまたま会話する時間があって聞いたら、アケミはジュンイチとつきあっていない、むしろうざがってる。
前から彼氏がいるんだけどジュンイチは
「そいつと別れろ、オレと付き合え」と迫ったとか。
さすがにこれじゃ可哀想なんで俺は仲間たちと相談した。
グルーブラインにアケミも入れ次の飲み会の前に入念な打ち合わせ。
そして次の月の飲み会がやってきた。
飲み会でスカッと
ジュンイチはアケミを自分の車に乗せてきて完璧に夫婦気取り。
その前に俺らが店の前で待っていて、みんなでドヤドヤと店の中へ。
まず俺ら三人が陣取った。
一番奥の席を空け中央に俺。向かい側の列の奥と中央に仲間二人。
アケミは俺の隣、つまり一番奥に座った。こうしてジュンイチとアケミは切り離された。
一瞬戸惑うジュンイチ。でもこの時はおとなしく席に着いた。
ほどなくもう一人の先輩も来て、空いてるジュンイチの向かい側の席へ。
みんなでビールで乾杯なんだけど、アケミのジョッキは俺ら三人としか乾杯せず、ジュンイチがアケミの方に手を伸ばし乾杯しようとするのを俺ら三人が阻止、といっても
「おつかれさんです!」と労いながら乾杯してやった。
その間にアケミはもう席について黙々と食い始めてる。
俺ら三人からしたらちょっと年の離れたお姉さんなんだが会話するのは楽しくて、前回のような先輩の小言ではなく身の回りの些細なことで俺ら四人盛り上がった。
ここで知ったのは、ジュンイチは極めて話題の引き出しが少なく、せいぜいサッカーとパチンコと仕事の話だけ。これじゃ女もつまらんわ。
俺らとアケミの話題に入ることもできず、ただ向かい側の先輩が相手するだけ。
イライラのマックスが来てるぞって伝わってくる。
そろそろいいかなと
「アケミさんは結婚のご予定ないんすか?」みたいなことを切り出した。
ア「考えてる人はいるんだけど~年下なんだけど前から付き合ってる人で~」
ジ「でもそいつとは別れたんだろ?」
ジュンイチの動揺ぶりが笑えた。
ア「別れてないし」
ジ「でも親が結婚に反対してるって言ってただろ」
このへんは二人でいる時にそんな会話があったらしい。俺らもラインチャットで知ってた。
ア「反対されたのはまだ学生だからで、もう就職したから親も反対してない」
ジュンイチ怒った口調でファビョりだす。
「そんなやつのなにがいいんだよ!」
会社なんて潰れるかもしれんしそいつが務まるかもわからんし、などなど。
アケミ彼氏の会社は俺らも聞いたことがあって結構な優良企業。
給料もいいしボーナスも出るから年収はジュンイチの(そして俺らのw)二倍近い。
ジ「結局カネかよ!」この捨て台詞はもう予想通りだった。
俺ら「でもアケミさんはその人がまだ学生の時からつきあってたんですよね」
俺ら「そうそう、カネがない時からの交際なんだからカネ目当てじゃないよな」
俺ら「彼ってどんな人なんですか?」
ア「優しいし色んなこと知ってていろいろ教えてくれるしマッサージもしてくれるし」
ジ「マッサージ位俺だってできる!」
俺ら「でも好きじゃない人に触られても気持ちよくないですよね」
ア「そうだよね~」
ア「それより男でいい年して派遣って無理だから」
予想外のセリフには俺らもへこんだw
ジュンイチは顔面真っ赤にして無言に。会計の時も近づいた。
ジ「送ってやらないから勝手に帰れ」
しかしアケミはにこやかに外に出ると、迎えに来ていた彼氏の車に乗り込んで去っていった。
翌日、ジュンイチは突然派遣会社に辞表を提出し、この会社から消えた。
数か月後にジュンイチから俺の仲間の一人に電話があり、アケミのことを聞いて来たようだったが、そいつはアケミが彼氏と正式に交際し始めたことを伝えると、二度と電話は来なくなったようだ。
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