小学二年生の、ちょうど今ぐらいの季節の頃
学校から帰って、いつものようにただいま〜と家のドアを開けたら母親が飛び出してきて、
「行くよ!」と叫んで私の手を掴んでグイグイ引きずるようにして歩き出した。
痛い、やめてと言っても離してくれない
そして車に乗り込むと無言で走り出す。
どこに行くのかと聞いても全く無言の母。
高速に乗って、途中でウドン食べたりトイレ行ったりで休憩したけど母親はその間もほとんど喋らず、目を吊り上げ口をひん曲げてた。
見た目はお母さんだけど、きっと何かに乗っ取られてるんんだと、その時の自分は思った。
すっかり真夜中になったころ高速を降りたら、今度は山道みたいなところをグネグネ走っていく
さすがに怖くなって
「お母さん、どこに行くの、ここどこ?」となんども聞いたら
「うるさい!黙れ!」と怒鳴られた
母は普段とてもおとなしくて、怒鳴ったことなんかないからやっぱりこの人はお母さんじゃない!どうしよう、悪い奴にさらわれた〜と震え上がった
やがて、なんかテレビでしか見たことがないような古い大きな屋敷の前に着いてまた母は私の腕を掴んでグイグイ進んでいく
屋敷の戸が開いてお爺さんお婆さんと、オジさんが出てきてそうしたら母がしゃがみ込んでギュワわあああみたいな声を出して泣き始めてしまった
そのあと屋敷の中に入ったんだけど、中はものすごく暗くて母と見知らぬ人たちが、聞いたことのない
「ウンワカウンワカ」みたいな言葉で喋ってる
私は、ああどうしよう、これは絶対宇宙人だ、私は攫われちゃったんだとすっかりパニックになってしまった
なんとかしてここを逃げ出さないと命が危ない、そう思った私は皆が喋るのに夢中になっているスキにそっと外に出て、そのまま走り出した
走り出したはいいけど、辺りは真っ暗な山道でどこに行ったらいいかも分からないその時頭にひらめいたのはヒッチハイク。
そうだ、車を止めて乗せてもらえばいい!しばらく走ったら、広い車道に出たので、そこで待っていたら車が来た。
手を挙げて車道に出たら、車が急ブレーキを踏んで蛇行逸れたと思ったらすごいスピードで去ってしまった。
どうしよう…と呆然としてたら、後ろから呼ぶ声がする。
見たら、さっきの屋敷の中にいたオジさんとオバさん、それから高校生くらいのおにいさん。
私は逃げようとしたけどすぐに捕まり、泣いて騒いだけど屋敷に連れ戻された
まぁオチは分かると思うけどその屋敷は母の実家で、オジさんは母の兄。
おにいさんは私の従兄弟。
母は父との結婚を親に反対されて、家出して結婚した。
夫(父)とうまくいかなくなっても、もう実家には戻れないんだと思い込んでひたすら我慢していたけど、どうにも我慢できないことが起きてどっかーんと爆発したあげく、私を連れていきなり実家に戻った、ということ。
そんなこと何も知らない私は、うちゅうじーん!!とか泣いて騒いだらしく(あまり覚えてない)大人たちに慰められたり笑われたり。
子供心には、笑い事じゃなく本当に修羅場だったんだけどねいや、夜の山道で突然ランドセル背負った子供に飛び出された車が一番の修羅場だったかもしれないけど
あなたが轢かれなくて良かったよ。
あなたのためにも、あなたにヒッチハイクされそうになった車の運転手さんのためにも。
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