私が客室乗務員としてハワイ路線に乗務していた時の出来事です。
外資系航空会社で、客室乗務員として働いていました。その中に成田発のハワイ路線がありました。
ハワイ路線は毎便満席なのですが、長期休暇、年末年始は満席に加えて本当に様々な事件が次々と起きるのです。
ハワイ路線は毎便大変で、出発前にみんなで気合を入れて、乗務中も何度も励まし合って乗り越えるほど大変なのですが、その日は年末のお休みがちょうど始まった日で、仕事終わりやお正月休みの初日で浮かれたり疲れたりしてる人がどっと沢山乗ってきていらっしゃいました。
子供も沢山、見るからに酔っぱらってる人もいれば、おじいちゃんおばあちゃんもたくさんいました。
そして多いのが、赤ちゃん連れです。
まだハワイも何もわからないであろう赤ちゃんが、お父さんとお母さんに連れられて何人か飛行機に乗ってきていました。
あちらこちらから鳴り響く呼び出し音、お酒を飲みすぎて酔って吐いてしまうお客様、そして共鳴しながら泣きわめく赤ちゃんたち。
泣きたいのはこっちだよと正直思ってしまいます。
「ポン」そんな中、ベルト着用サインが点灯しました。これから揺れるから座って、という機長からの合図です。
お客様からの飲み物のリクエスト、体調不良の方のケア、片づけ…なにも終わってなくても客室乗務員も座らないといけません。
そんなときに、CAシートのすぐそばの子供が大きな声で泣きわめき始めました。
「どうしたの?大丈夫だよ」とあやすお母さんと、まったくもって泣き止む様子のない子供。
よくよく泣き声を聞いていると、
「ばーばのところにいきたい」と言っているのがわかりました。
どうやら、離れた席に座っているおばあちゃんのところに行きたい模様です。
しかしながらこのサインが消えるまでは立ち歩いてはいけないし、何よりおばあちゃんのところに行くなんて全く急ぎの用事でもないし、もちろんお母さんがなだめて終わると思ったら
「わかった、そんなに泣くならいってらっしゃい!」とベルトを外すお母さん。
飛行機はがたがた揺れていて、転倒していつケガをするかわかりません。
「お座りください!」と私が言っても一向に聞かず、さらに大きな声で
「お座りください!お子様を座らせて下さい!」と言うと
「なんだって!?」とお母さん。
安全のために言っている私に
「偉そうな態度とるんじゃないよ!ただの乗務員が!」と言ってきました。
その瞬間に
「ポン」とベルト着用サインが消えました。
対応をしにそのお客様の元に行こうとした私の前にスッと影が現れたのです。
一部始終を見ていた先輩でした。
「お客様。ベルト着用サインは機長からの着席の指示です。提案ではなく指示です。これには私たちもお客様も従わなければなりません。お客様の安全の為です。その機長の指示に従わないものは、安全阻害行為といって、罰金や刑に問われるものも有ります。おわかりいただけますか?」
あまりに淡々と、隙のない言い方に横で聞いている私でも怖いと思いました。
お客様は
「はい…すいません…」と言ったきり顔を赤くしてうつむいていました。
先輩は振り返って私にウインクをしてくれました。
かっこよすぎてスカッとしました。
私たちの一番の仕事は、お客様の安全を守る事です。
先輩のように、凛として時には毅然と厳しめにお客様にも言わないといけないんだなとすごく勉強になりました。
そして、ぶれない軸でものを言うとあんなにも迫力があるんだなと勉強になりました。
コメント