これは私が以前勤めていた病院での話です。
当時私は放射線技師として働いていて、その日は遅出の勤務で夜遅くまで残っていたときでした。
技師室の扉は半透明になっていて、外からボンヤリ見える構造になっていました。
その日は緊急の患者さんも来なかったので定時で上がれるかな?と思ってるときに、外に人影が見えました。
時間外で来られる患者さんの中には連絡をしないで来る患者さんも多く、そういった患者さんはいざ病院に来たはいいもののどこに行けばいいかわからない方がほとんどでした。
今回もそういう患者さんかな?と思い、もう少しで帰れたのに…としぶしぶドアを開けて
「どうされました?」と声をかけました。
ドアの向こうにはいたって健康そうな若者が二人立っていて
「ここに田中(仮名)っている?」といきなり聞いてきました。
タメ口でなんだか横着な態度といきなりの質問に戸惑いながらも
「どういった用件ですか?」と聞くと
「だから田中っているでしょ?医者の。会わせてよ」と相変わらずのタメ口で聞いてきました。
たしかに田中先生はいるのですがもう帰ってしまっているので
「とりあえず用件をお聞きしてもいいですか?」と聞くと
「母親が今日診察を受けたんだけど、その先生の態度が酷かったと聞いた!謝れ!」ということでした。
これはただの技師である自分がどうにか出来る話じゃないなと思い、幸い事務長がまだ残っていたので相談してみる事にしました。
相談していると看護師から救急車の連絡があり、若者は事務長に任せて私は救急車の対応に向かいました。
救急車の方は重症だったのですぐに検査に向かいました。
その日の当直はたまたま院長先生で、看護師達と一緒に患者さんを移動させるのを手伝ってくれてました。
すると若者達はそれを見かけると院長先生と知ってか知らずか
「あのー!話あるんすけど!」と明らかに邪魔になる位置から話しかけてきました。
さすがにイラッときた私が声をかけようとすると、私より先に院長先生が
「今はそれどころじゃないだろう!見てわからないのか!クレームならあとでいくらでも受け付ける!そこをどいてくれ!」と普段温厚な院長先生からは想像つかないような剣幕で一喝しました。
若者達はやっと事の重大さに気付いたのかすっかり萎縮してしまいました。
向こうの言い分もあるでしょうが、若者の態度が気に入らなかった私はスカッとした気分で仕事が出来ました。
ちなみに若者達の母親は軽い認知症の疑いがあるそうで、院長先生がその事も含めて丁寧に対応してくれました。
すっかりしおらしくなった若者達は
「お騒がせしてすいませんっした」と一礼して帰っていきました。
院長先生は
「あの子達の態度や行動はともかく、母親の事を想っての事だ。多目に見ようじゃあないか」といつもの笑顔で話してくれて、とても紳士的でした。
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